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2020.04.13

これまでも様々なチャリティ活動に積極的に参加してきたDが、昨年秋に起こったオーストラリアの森林火災への支援を決意し、2つの楽曲「ACACIA~Pray For Australia~」「Hard Koala」を完成させた。販売収益から被害を受けた野生動物や自然保護のために、販売収益の一部が寄付されるが、Dの結成日である4月6日から始まった楽曲配信(CDは5月8日にリリース)においては、収益の70%が自動的に国際的な環境保全団体の日本支部である『WWFジャパン』に自動的に配分される日本初の仕組みをASAGIが考案。特にサブスクリプション形態であれば、文字通りに聴けば聴くほどチャリティに参加できる。
ASAGI(vo)を始めとするメンバーの真摯な思いは、楽曲そのものにも明確に映し出されている。もちろん、彼ららしさは両曲でも際立つが、これまでに聴いたことのなかったDとも受け止められる新鮮さも魅力だ。5人は「ACACIA~Pray For Australia~」と「Hard Koala」にどう取り組んだのか。レコーディング作業が終了した直後、5人にじっくりと語ってもらった。

  ――「ACACIA ~Pray For Australia~」と「Hard Koala」は、オーストラリアの森林火災に対するチャリティ・ソングとして制作されたそうですね。以前から諸々のチャリティ活動には熱心なバンドですから、今回も納得のいくところですが、まさに森林火災の被害が尋常ではない広がりを見せていた最中に、ASAGIくんはツイッターなどでコメントも出していましたから、その当時から自分たちには何ができるのかと、具体的に考え始めたのでしょうね。
ASAGI:そうですね。おっしゃっていただいたとおり、例えばこれまでも、横浜スタジアムで開催された『Water Aid』のイベントへの出演だったり、東日本大震災や台風による被災に対する支援であったり、以前からチャリティ活動に対しては積極的に参加していきたい気持ちだったんですね。Dとしては微力だし小さなことかもしれないけど、自分たちが作った音楽で何か少しでも誰かの力になれたらいいなという気持ちは、ずっと持ち続けてきたことなんです。ファンのみなさんはよくご存じだと思いますが、僕はホントに自然と動物が大好きなんですよね。だからこそ、オーストラリアの森林火災の報道に触れたとき、なおさら心が傷んだんです。温暖化の進行が大規模な火事を引き起こす要因の一つになっているという分析もありますし、人間が直面する環境問題にも大いに関係する話なんですよね。森林がどんどん燃え広がっているニュースを目にしていた当初は、ただただ悲しいだけで、自分に何ができるのかといったことを考える心の余裕はなかったんですよ。ところが、ある程度、気持ちが落ち着いてきたとき、燃えてしまった森から、新たな芽が出てきている画像を目にしたんです。その瞬間に希望を見出して、メロディが浮かびそうだな、曲を作ろう……音楽で希望を与えたいなと思ったんです。
――なるほど。まず曲を書こうと臨んでいたのではなく、偶然にも新たな萌芽を伝える画像からインスピレーションを受けたということなんですね。それが「ACACIA~Pray For Australia~」となったわけですか。
ASAGI:そうです。そのときは、もちろんチャリティ・ソングにしたい思いはあったんですが、どういった形で寄付するのかというところまでは、まだ決まってなかったんです。だから、最初のうちはただただ集中して曲を作るという作業だったんですね。
――「ACACIA~Pray For Australia~」はどの部分が生まれてきたんですか?
ASAGI:メロディですね。自然にAメロ、Bメロ、サビという流れで周りを肉付けしていった感じですね。特にサビのメロディは僕らの住むこの日本から、ファンの想いも乗せ、空と海を越えてオーストラリアに届けるという想いをそのまま表現しました。
――おそらくその時点でいろんな映像がASAGIくんの中には見えていたと思うんです。それを具体的な言葉として歌詞に置き換えていったのでしょうね。制作を決意したのは、具体的にいつのことだったんですか?
ASAGI:いつだったかなぁ……。メンバーに話をしたのはいつだったっけ?
Ruiza:去年の10月にはそういう話をしてたかな。ちょうどその時期は、年末までのツアーの準備をしていたときだったんですよ。
HIDE-ZOU : そうですね。ツアー前にはその話を聞いていて、デモは年明けてから聴かせていただきましたね。
ASAGI:おそらく、そこでメロディはボイスレコーダーに鼻歌程度の簡単な形にはしていたと思うんですよ。それでツアーが終わってから、実際にデータに起こし始めた感じですね。その時は歌詞はまだなかったかな。
――デモはほぼ完成形に近かったんですか?
ASAGI:シンセは今とあまり変わってなくて、ベーシックな部分、アコースティック・ギターが入ってたり、そういう感じだったかな。フレーズも若干入ってましたけど、ベースはほぼルートだったよね。そこからみんなで詰めていって、最終的にプロデューサーの岡野(ハジメ)さんも交えて完成させて。
Ruiza:デモを初めて聴いたときから、グッときましたね。今回のチャリティへの思いがホントに曲に詰まってて、冒頭からAメロに入ってすぐに、メロディからはコアラもそうなんですけど、自然の映像とかがすごく浮かびましたし、愛が溢れているなぁとすごく思いました。
HIROKI:僕もニュースとかで映像を観てたので、デモを聴いたとき、ドラムとしてのストーリーをそこにどのようにつなげていくかを考えたんですよね。たとえば、最初のサビは、音を飛ばすような、広がりのある感じでというASAGIくんからの意見を踏まえてアレンジを考えつつ、曲の流れを活かしながら、音の力強さをいかに出していくか。スロー・バラードである分、音を極力少なくしたことでパワー感はすごく出せたかなと思いますし、そこは歌詞とも上手くリンクしてるんじゃないかなと思いますね。でも、フレーズは自然と出てくる感じだったんですよ。だからやりやすかったですし、録りもすごく早かったんですね。
――とはいえ、こういった曲は勢いで押せない分、難しさもありそうですよね。
HIROKI:そうなんですよ。3テイクぐらいしか録ってないんですけど、1テイク目はもう無心で叩いたんですね。でも、2回目、3回目は、やっぱり音を置くほうに比重がいっちゃって、頭で考えた分、あざとくなっちゃったんですよ。自分で聴いてもやっぱり最初のテイクが一番よかったです。今まで自分の中で培われたものが無意識に全部そこに凝縮されてたんでしょうね。
――言うなれば、結果的に一発OKだったということになりますよね。自分のポテンシャルを期せずして自覚するレコーディングでもあった。
HIROKI:そうなんですよね。別に過信しているわけじゃないですけど、自分では意識してないところでのループ感がすごく出せてたみたいで。やっぱ意識してないほうが、逆にいいテイクが録れるんだなということをまた改めて学ぶことが出来ました。
――ベースも置き位置がとても難しい曲でしょうね。
Tsunehito:そうですね、フレーズ自体は詰め込まないように……白玉のロング・トーンみたいなものの延ばし具合とか弾く強さとか、そういう部分にすごく気をつけましたね。激しい曲でアタッキーに弾くようなアプローチは、今も研究しつつ、自分の中ではコツは掴みつつあったりするんですけど、こういうゆったりした楽曲で、太さがあって、なおかつ芯が強い部分を出すのって、やっぱり難しいんですよ。気持ちが入っていくと、どうしても力強く弾きがちになってしまって、ふくよかな部分がなくなり、アタックが強くなってしまうんですよね。デモをもらったとき、ASAGIさんからはDのオンラインサロンでも公開しているイメージ映像も送ってもらってたんですよ。自分でも今回の森林火災の被害などの細かいところを調べたりしてたんですけど、ニュースとかで知っていたのはほんの一部分だけだったんですよね。現実を知れば知るほどショックで……。そういう気持ちも込めて弾けたと思います。
――具体的な情景が見えていたからこそだと思いますが、最初のサビが終わった後にさりげなく入ってくるベースにも惹きつけられますよね。
Tsunehito:ありがとうございます。ベースがインしてくる、ある意味見せ場ではあるので、印象に残りつつ曲に馴染むようなフレーズというのはすごく意識しましたね。
HIDE-ZOU:僕も初めてデモを聴いたときには、すごくいろいろ思いとかが伝わってきて。それと同時に、こういう音を入れたらいいなとか、自分の音も頭の中で鳴ってたんですよ。たとえば、サビ後のヴォリューム奏法などはそうですね。
――あのヴォリューム奏法は訴求力がありますよね。
HIDE-ZOU:ありがとうございます。ASAGIさんが作ったイメージ・ムービーも観てましたし、いろんな情景が浮かんでたんですよね。今回のチャリティに関しても「何かやれたらいいな」で終わるのではなく、「これをやっていこう」というASAGIさんの強い意志の力も感じましたし、そういった気持ちが自分の弾くギターの音にもすごく入ったと思うんですよ。だから完成したときにも改めて感動しましたし。今回はアコースティック・ギターが入ってますけど、レコーディングの前にヴィンテージのアコギを買ったんですよ。以前から探してはいたんですが、ちょうどこのタイミングでいいガットギターが見つかって。
――運命的なタイミングだったのかもしれませんね。
HIDE-ZOU:そうですね。アレンジの段階で、アコースティック・ギターのパートをどうするか、Ruiちゃんと岡野さんと話してたんですけど、音の相性を考えたとき、二人で同じようなアコギを弾くのではなく、僕はガットギターのほうがいいかなって話にもなってたんですよ。
Ruiza:僕もアコギを頑張って指弾きしましたね。このオーストラリアの森林火災は、知れば知るほど、悲しくなってしまう出来事だったんですよね。一昨年、ハワイのキラウエア火山の噴火によって大規模な火災がありましたし、自然や動物が犠牲になる現象がずっと続いているような印象もあったんですよ。だからこそ、今回のチャリティのアイディアをASAGIくんから提案されたときは、むちゃくちゃ嬉しかったですし、ホントにやりたいなとすぐに思ったんですね。演奏そのものはすごく難しかったですけど、気持ちを込めることができたかなと思います。
――二度目の間奏、いわゆるギター・ソロは、どんな光景をイメージしてました?
Ruiza:最初に作ったものを、ASAGIくんと岡野さんに相談しながら詰めていったんですけど、苦しさだとか、切なさだとか、解放させたい思いとか、そういう気持ちで作っていきましたね。
――中盤から後半にかけてのチョーキングで聴かせるところは、特に気持ちが露わになるところでしょうね。
Ruiza:そうですね。ちょうどコアラが泣いている映像を観たりもしてましたし、グッとくる音が録りたかったんですよ。ただ、いざ録ってみると、すごく難しかったですね、正確なリズムを意識しすぎてて。その辺は何度も試しましたし、気持ちのこもったプレイとはどんなものなのか。そんなギターを収めることができたと思います。
ASAGI:完成に至るまで、岡野さんも交えて、いろいろディスカッションをしながら進めていったんですけど、最終的に人間の演奏と思いが詰め込まれた、とても感動的なものができたなと思います。特に今回はそういった感情の面もすごく大事な曲でしたし、ヴォーカルのレコーディングについても、ホントに気持ちを込めて歌うことができたなと思いますね。以前から僕が目指している”魂の歌”がそこにはありました。
歌詞も、冒頭から大自然というものを思い浮かべながら、今に至るまでを眺めつつ、これからどうしていくべきなのか、どうあるべきなのかという思いを綴ってますね。ただ、僕らだけではなく、聴いてくれた人の思いなども集まることで、大きな希望となるようなイメージはずっとあったんです。自分が思い浮かべる映像と伝えたい曲の世界観……この楽曲が世に出てからの未来も含めてですよね。当時はまだチャリティの形(寄付の仕方など)までははっきりと決まってなかったんですが、今となってはすべての要素が詰まった形がこの楽曲であるとは言えますね。
――<小さな光を集めて>というサビの一節を始め、情景やメッセージが思い浮かびますが、ここまでわかりやすい歌詞は、ASAGIくんは書いたことがなかったのではないですか?
ASAGI:そうかもしれないですね。わりと珍しい形というか……いつもそうなんですけど、決してわかりにくくしようとは思ってないんですよ。自分なりの答、一番伝えたいことを伝えるために、時には難しくなったり時には簡単になったりするんですけど、今回は自然とストレートな方向に行ったんでしょうね。
――これまでの楽曲にもいろんな比喩があり、それを読み解く面白さがあると思います。ただ、容易には正解には辿り着けないものも多かったと思うんです。この「ACACIA~Pray For Australia~」に関しては、明確な意図や情景を随所で言葉にしている。そう考えると、とにかくこの現状を伝えるのだということが第一義にあったんだろうなと思うんですよ。たとえば、曲名にも冠された“アカシア”はオーストラリアではゴールデンワトルと呼ばれる国花であり、春を告げる花でもある。
ASAGI:そうですね。まず、先ほどもお話しした、曲にしたいと思ったキッカケが、(焼け落ちた)黒い森から芽が出てきた光景だったので、希望の花が咲いていくようなイメージにしたいなと思ったんですよ。そうであるならば、オーストラリアを象徴する国花、ゴールデンワトル、つまり、アカシアにしようと思ったんですね。ただ、どこにそれを歌詞のどこに持ってくるのかは、結構、書きながらずっと考えてたんですよ。最終的には後半のクワイアが入ってくるところ、そこしかないなというところに辿り着いて。
――絶妙な位置ですよね。特に意味のある言葉だからこそ大切に扱いたいでしょうし、未来への希望を表す花でもありますから。
ASAGI:はい。さっきも言ったように、自分たちの思いだけではなく、聴いてくれた人たちの思いも運ぶ。そういう気持ちが特に強かったんですよね。僕の中では世界中の人たちが歌っている光景が浮かんでいたのでクワイアを入れたんですが、その入り口に“ACACIA”というタイトルが入るのは必然的でしたね。
――ところで、岡野さんはこの曲を聴いて、どんな反応だったんですか?
Ruiza:すごく意味のある、チャリティに相応しい曲だねという話してくれました。そういうこともあって、よりバンドと一丸となってやってくれた印象もあるんですよ。
ASAGI:とても気に入ってくれてました。デモを送った後には「すごくいい曲だね」って電話がかかってきたんですけど、マスタリングの最中にも「めちゃめちゃいいものができたね」って言ってくれてて。
――そうでしょうね……というと変ですが、単にDらしい楽曲というよりも、「ACACIA~Pray For Australia~」は純粋に普遍性を感じさせるいい曲だと思うんです。代表曲という言い方が正しいかどうかわかりませんが、Dにとっても、より重要な曲なのではないかと思えてくるんですよ。
ASAGI:岡野さんもいつも完成形に対して、「いいね」とは言ってくれるんですけど、今回は「かなり」という言い方をしてくれてたんですよ。だから、いつも以上に手応えもあったのかなって。すごく嬉しかったですね。このタイミングだけで終わらせちゃいけない曲ですし、そういった思いを具現化する意味でも、ダウンロード/サブスクリプションからの永続的な自動寄付ができる仕組みを思いついたんです。楽曲のテーマも含め、イメージしたものをすべて形にできたことはホントに嬉しいですね。
――一方の「Hard Koala」は、「ACACIA~Pray For Australia~」とはまったく異なるスタイルの激しい楽曲ですね。
ASAGI:激しいですね。音像だけで言うと、今までで一番過激かもしれないですね。今回は新たな試みでオーストラリアの民族楽器「ディジュリドゥ」を取り入れてバンドサウンドと融合させているのですが、それもうまくいったと思います。
――ええ。構成がシンプルなだけに、より激しさが前面に出てくるのかもしれません。これはどのタイミングで書いたんですか?
ASAGI:制作にホントに入り始めたのは3月の頭ぐらいだっけ?
Ruiza:うん。この話自体は、2月のライヴのリハをやっているときにASAGIくんから聞いたんですよ。そのときに“Hard Koala”ってワードが出たので。だから、ASAGIくんの中ではもうちょっと前からあったんだと思うんですね。
――その時点で、ASAGIくんの中では、ハードコアとコアラが結びついていたと。
ASAGI:そうですね(笑)。もちろん、まずコアラありきでしたけど、スタジオでみんなに『今、「Hard Koala」って曲を作ろうと思ってる』みたいな話をしたんです。「ACACIA~Pray For Australia~」というバラードを完成させたタイミングでもあったんですが、いろんなオーストラリアの動物について調べているときに、コアラが別のコアラに木から落とされた後にコアラ同士が喧嘩をする映像を観たんですよ。そのとき、コアラってかわいいだけじゃないんだなって思って(笑)。
――ああいう顔をして凶暴な面もあるとはよく言いますよね。
ASAGI:そこでコアラの強い面も出したいなと考えたんですね。それと同時にハードコアとコアラが合わさった“Hard Koala”って言葉も浮かんできて。ただ、そのときは「ACACIA~Pray For Australia~」と同じタイミングじゃなくてもいいから、いつかできるときにやりたいなと思ってたんです。ところが、このコロナ・ショックの影響で、3月のライヴ1本とFCイベントが延期になったんですよね。そこでライヴができなくなった僕たちは、必然的に制作に集中することになったんです。だから、いろんなことが重なったんですよね。オーストラリアの森林火災へのチャリティがあり、その流れから、コアラのかわいいだけじゃない強い面を曲として表現したくなり、一方では様々な活動が制限されるコロナウイルスに負けたくない気持ち。それが「Hard Koala」が生まれた背景になりますね。
――ASAGIくんにとって、ハードコアというのはどういうものなんですか? 今までASAGIくんから、古のハードコア・バンドの話が出てきた記憶もないんですよ。
ASAGI:そうですね(笑)。今回、一番大事にしようと思ったのは、核(コア)ということなんですね。核となるところに何を訴えかけているか、そこをフィーチャーしていこうと思ったんですよ。だから、ハードコアという音楽を通して表現していこうというものではなくて、本来的にハードでコアな部分ということなんですね。その意味での激しさ、強い思いをハードに表現しようと。しかもコアラでいこうという感じで(笑)。
HIDE-ZOU:もちろん、重さとか疾走感とかもそうですけど、まさに過激という言葉がすぐに浮かぶぐらいの激しさなんですよね。
――スケジュールを逆算すると、曲が上がってから、すぐにレコーディングに入ったことになりますよね。ASAGIくんが作ったデモの段階から、この完成形のような激しさだったんですか?
HIROKI:そうですね、その時点でパワー感は十二分にあって、聴いてすぐに「あ、了解しました!」って感じでしたね(笑)。フレーズ的には、意外とBPM的には体感上は速く感じなかったんですけど、その分、勢いをどれだけ出せるかというところでしたね。だから、A’部分ではキックをツーバスで16分ではなく、8分でずっと踏み倒してるんですけど、テンポ的にはゆったりしちゃう部分なんですよ。だからこそ、逆にそこの突進力の重みを持たせながらいかに出せるかというのと、サビはテンポが倍になってそのまま突き進むんですけど、その前までの勢いも失速させないドラミングは上手くできたんじゃないかなと思います。
――この曲には打ち込みのリズムも入っていますが、演奏するうえでは、そこは特に気になるところでもないですか?
HIROKI:そうですね。逆に、ある意味そこに当てようという意識ではなく、一緒に演奏してる人っていう気持ちでやっているんですよ。だから、「ACACIA~Pray For Australia~」のときもそうですけど、そのリズムに当てていこうとか、意識が別のところにあると、あざとさが出てきちゃうし、曲の中でもドラム・フレーズが生きてこなくなるんですよね。結果的に、スウィングしている感もすごく出せてるんじゃないかなと思います。
Tsunehito:自分は聴いてきた音楽で言えば、パンクとかハードコアはすごく好きなので……。この曲を聴いてワクワクしたりしたので、芯の強いところを出したいなというのはすごく思いましたね。「ACACIA」とは真逆のアプローチで、チューニングも低いんですよね。一番低い音がG#なんですよ。ただ、テンポが速くて、音価も短いのが入っていたりもするんですね。低いチューニングでそういった音を出す難しさがあるんですよ。ただ力強く弾くだけだと、アタックしか鳴らない。だから、ちゃんとロー感とスピード感がある音を出すことは、すごく心がけましたね。とにかく核(コア)という言葉が感じ取れるようなものというのは、やっぱり意識しました。
Ruiza:カッコいいですよね。でも、リフはめっちゃ難しかったです。16分の裏のそこに音が必要という……何というんですかね。しっかり16を感じられていないと、置いていかれるというか。HIROKIくんの話に近いかもしれないですけど、16分と8分が混在しているので、しっかり弾かないと伝わらないですし、でも、狙いすぎると、それはそれで出音とかが思うようなものにならなかったり。凶暴というと変ですけど、コアラの強いところはギターでも表現する。とはいえ、その分の疾走感も必要だし、でも、突っ込んで変になるのも嫌だし。いいところをとるのが苦労しましたけど、ライヴ感だとか、昂揚感だとか、そういうのをすごく込められたかなと思いますね。ギター・ソロは僕が先で、後半がHIDE-ZOUくんです。いいバトンタッチができるソロになったなと思いますね。
――フレーズを引き継ぐような構成になっていますよね。
HIDE-ZOU:そうですね……岡野さんとのアレンジ作業というのは、ずっとピリピリした感じでやっているわけではなくて、冗談交じりに、「こういうのもいいんじゃない?」なんてアドバイスもあることもあるんですね。今回はソロの入口で、スカのリズムを試しにやってみたんですよ。そのときにしかない会話の中で生まれるミラクルが反映できてよかったなと思いますね。曲全体としても、今回はとにかく破壊力がすごくて、それがすごく耳に突き刺さる。それなのに聴きやすさもあるんですよね。新しいところに行けたなと思います。
――この間奏の最後にちらっとベースが入ってくるところがまた魅力的ですね。
Tsunehito:ASAGIさんのデモの段階から、ベースがピンのところがあったらいいんじゃないかなって美味しい部分を作ってもらったので。
ASAGI:ツネのルーツがハードコア、パンクだというのは知ってたんですよね。だからベースがグッと出てくるところを作りたいなと思って。
Ruiza:そういえば、「ACACIA~Pray For Australia~」があったからかもしれないですけど、すごい真逆の曲なので、最初に聴いてるときから、岡野さんはめっちゃヘドバンしてました(笑)。
ASAGI:怖いくらいカッコいいねって言ってましたね(笑)。
HIDE-ZOU:そうそう。「怖っ!」て(笑)。
――怒られるかもしれませんが、曲名を見たときに、面白い曲なのかなと思ったんですよ。ジャケットのアートワークにもかわいらしさがある。ところが、曲を聴いてみたら、思いっきりハードに叩きつけられる(笑)。
ASAGI:そういう印象もあるかもしれないですね。そのギャップを狙ったんです(笑)。
HIROKI:何しろゴリゴリですからね(笑)。
Ruiza:ASAGIくんの歌い方も最高じゃないですか?
――ええ。そうなんですよね。
HIROKI:びっくりしましたね。最初にデモ聴いたときにASAGIくんの歌い方が新しくて「あれっ!?これ、ASAGIくんの声じゃなくない!?」と思いましたからね(笑)。
――メンバーも驚いたほどなんですね。
HIROKI:そう。だからすぐにASAGIくんにラインしましたもん(笑)。そのぐらい衝撃がありましたね。
ASAGI:ホントに違うと思ったんだ?(笑)
――歌が入る前にまず激しい音からくるインパクトがあるんですよね。そこに調和していることもあって、その新たなヴォーカル・スタイルにも違和感は覚えないんですよ。ただ、よく考えてみると、ASAGIくんはこんな声じゃないよなということに気づくんです(笑)。
HIROKI:そうなんですよ。曲に合ってたから普通に聴いてたんですけど、「あれ!?」って(笑)。
ASAGI:ははは(笑)。多分、声色としてはホントにたくさん持っているんですよね。その自分の声のいろんな特性を活かすための曲を作るというときもあるんですけど、基本的には曲を最大限に伝えるための楽器として、自分の声があるというふうに考えているんですよ。今回は曲の表現として、この声が一番、「Hard Koala」の思いを伝えることができるんじゃないかと思ったんですね。環境汚染に対する怒りみたいなものが。結構、喉を潰した歌い方をするので、負担を考えてあまりやらないで来た声の出し方ではあるんですが、今回に限っては、とにかく、楽曲に全身全霊を込めて伝えるということに焦点を当ててましたね。アートが大前提で喉のケアとかは後で考えればいいやって。
――今までも部分的にこういった声を使うことはあったと思いますが、「Hard Koala」では、これがメインと言える声ですからね。
ASAGI:そうですね。でも、レコーディングは何も苦労することなく、一瞬だったんですよ。ホントに何本か歌って決めちゃったっていう。
――勢いでできちゃうわけですね、ASAGIくんの場合は。それが曲には合っているのでしょうね。先ほども話に出ていた<核(コア)>という言葉は実際に歌詞の中にも出てきますが、<優しさを恥じるな>という一節の後ゆえ、いろんな捉え方はできるとは思うんです。やはり人間にとっての本質、本来的な大切なものという意味合いではあるでしょうね。
ASAGI:そうですね。人間のコアな部分には、絶対に優しさというものがあると思うんですね。そこに響く音楽ももちろんそうなんですが、全人類の心のコアにある優しさというものが、地球に広がっていってくれたらいいなということですかね。根っからの悪人っていないと思うんです。みんな絶対に心のどこかしらにピュアな部分はあって、それが光を放って音楽を通し地球とつながっているような……そういうイメージでしたね。
――ほとんど英語で構成されていますが、これは純粋に音への乗り方というところですか?
ASAGI:音への言葉の乗り方とか、耳への心地よさとかを考えたときに英語がベストだなと思ったのと、やっぱり日本語だとストレートになりすぎちゃうメッセージが、英語だと曲として伝わりやすい部分があったんですよね。
――もちろん、細かいところには様々な工夫があるんですけど、印象としてのストレートさは、Dのとしては珍しい部類に入るでしょうね。
ASAGI:うん。特にライヴができなくなったことによる、フラストレーションの爆発も、この曲の生まれた背景にはあったと思うんですよ。ライヴを再開したときには、みんなではっちゃけようぜ!じゃないですけど、然るべきときには、ホントに「ライヴを楽しもう!」みたいな思いも強かったのかもしれないですね。
――確かにメンバー全員でコーラス・マイクに向かいそうな光景が浮かぶし、客席でも拳を振り上げている様子が見えてきますよね。その一方で「ACACIA~Pray For Australia~」とのつながりも見えてくる。コアラ自体もそうですが、<百年後の森><再生の雨>というのは、「ACACIA~Pray For Australia~」があるからこその話ですよね。
ASAGI:確かにそのとおりですね。一度焼け落ちた森が復活するには100年ぐらいかかるって言われているじゃないですか。その頃には僕らも生きていないので……。
――ASAGIくんはヴァンパイアですから、生きているのではないでしょうか?(笑)
ASAGI:あっ、そうか(笑)。ただ、いずれにしても、今の僕らの思いもずっと続くようにという願いも込めたかったんですよね。この「Hard Koala」に関しては、言葉の響きなどでも面白い遊び心を入れているんですよね。ド頭にある<You got it>も、(コアラの好物である)“ユーカリ”に聞こえるじゃないですか。ライヴでお客さんがユーカリって叫んでも<You got it>に聞こえると思いますし(笑)。
――なるほど! 確かにそこは今回ならではのレトリックですね。より一層、ライヴでも映えそうな予感がします。さて、Dに限らずですが、現状で今後のライヴがどうなるか見通せない状況が続いていますが、バンドとしては、今、どんなことを言えますか?
ASAGI:そうですね……Dを結成した当初は、たくさんの人に聴いてもらいたい、観てもらいたいという思いも当然ある中で、メンバー全員の共通の目標としてはメジャー・デビューというものがあったんですよね。実際にそれを果たして、まずメジャーで10年やってみた。今、結成20年へと向かうに当たって、何か新たな目標が欲しいなと思ったときに、自分たちの音楽が、何かの役に立つような活動をしていきたい思いが、もっともっと強くなってきたんですね。
この「ACACIA~Pray For Australia~」と「Hard Koala」は、それがより具現化してきた象徴の曲なんじゃないかなと思っているんですよ。ダウンロード/サブスクからの自動的な寄付というのも日本では初めての試みなんですが、そういった僕のイノベーションプランを『WWFジャパン』が快く受け入れてくれたのは、すごく自信につながる出来事でもあったんです。そういった活動をもっと広げていくような取り組みはしていきたいと思っているんですね。たとえば、これまでのDの楽曲にも、自然だったり動物だったりをテーマにしたものはたくさんあるので、権利問題をクリアできるものに関しては、聴けば自動的に寄付できる形に徐々にしていこうとも考えていて。
ただ、僕が思っているのは、今回はWWFジャパンと<#あなたの1再生が自然と命を救う>というハッシュタグを作りましたが、Dだけの企画じゃなくてもいいんです。それは『WWFジャパン』にも提案したんですね。D
だけじゃなく、その活動に共感してくれたミュージシャン、自然保護の力になりたいという人たちがいるのであれば、自由に使えるようにしたいと。
――そのキッカケづくりをしたということですね。
ASAGI:そうですね。楽曲だけじゃなくて、自分たちの活動を通しても社会の役に立つ、そんな歩みを今後もしていけたらいいなと思ってます。それが僕としても、Dとしても新たな目標にもなりますし、自分たちの音楽により誇りが持てるし、さらにいい音楽を作っていきたいというモチベーションにもつながっていくと思うんですね。そして、今アーティストとして音楽で何ができるのか?というのを常に必死に考えて、前向きに行動していきたいと思います。今、新型コロナウイルスで皆さん大変な時期だと思いますが、どうか命を大事にした行動を心がけてください。必ず生き抜いて笑顔で逢いましょう。
TEXT : 土屋京輔 


2020.05.08 2タイトル同時Release
ACACIA ~Pray For Australia~
GOD CHILD RECORDS/GCR-197/¥1,000(本体価格)+税/2Songs CD/Limited Edition
<収録内容>
数量限定盤(CD)
1. ACACIA~Pray For Australia~
2. ACACIA~Pray For Australia~ (Instrumental)
全2曲収録

先行配信開始!
「ACACIA ~Pray For Australia~」 >>https://linkco.re/Dde9hgFY
Hard Koala
GOD CHILD RECORDS/GCR-198/¥1,000(本体価格)+税/2Songs CD/Limited Edition
<収録内容>
数量限定盤(CD)
1. Hard Koala
2. Hard Koala (Instrumental)
全2曲収録

先行配信開始!
「Hard Koala」>>https://linkco.re/s8G9acBb
※D「ACACIA ~Pray For Australia~」「Hard Koala」のCD利益の一部をオーストラリアの森林火災によって被害を受けた野生動物や自然保護の為に寄付させていただきます。
※D「ACACIA ~Pray For Australia~」「Hard Koala」の楽曲配信(ダウンロード、サブスクリプション)収益の70%をWWFジャパンに寄付させていただきます。
※D「ACACIA ~Pray For Australia~」「Hard Koala」のCDジャケットにはFSC認証紙(森林認証紙)を使用しています。


※こちらは試聴版としてデータを圧縮しております。製品版はさらにハイクオリティーな画質・音質にてご視聴いただけます。



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