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2016.11.08

待望のフル・アルバム『Wonderland Savior』は、Dのポテンシャルを最大限かつ多彩に発揮した内容に仕上がっている。「HAPPY UNBIRTHDAY」、そして「MASTER KEY」という2枚の先行シングルで示していたように、そのモチーフになるのは『不思議の国のアリス(原題:Alice In Wonderland)』だ。しかし、それらがほんの布石でしかなかったとしか思えないほど、本作の濃密な仕上がりさには驚かされるだろう。メンバー自身が「やり切った」と力強く断言する、彼らの新たな飛躍を予感させるマスターピースが完成した。

――これまでも『不思議の国のアリス』がモチーフになった作品はありましたから、今回のテーマ設定自体はDにとって新しいことではないですよね。ところが、今までにないアルバムのような気がしてならないのは、コンセプトの立て方と広げ方、バンドが置かれた状況、メンバーのモチベーションなどの様々な条件が、ポジティヴに重なった結果なのだろうなと思うんです。
ASAGI:まさにそうですね。根本に遡ると、Dの結成当初に書いた「Alice」(2003年)という曲がありますが、もちろん、『アリス』がモチーフではあるんですけど、そのときにはすでに自分なりの世界の広げ方ができそうな予感はあったんですね。その後に「闇の国のアリス(2008年)ができたときに、あの頃の手応えは間違いじゃなく、まだまだいけるなと確信してたんですよ。だから、どのタイミングで、どのようにコンセプト・アルバムを作ろうかなって計画は前々からあったのはあったんです。それが具体化してきたのは、(2015年初頭から夏にかけての)活動休止中のことで、次はどんな曲を打ち出そうかと思ったときに生まれたのが「HAPPY UNBIRTHDAY」だったんですね。そこで考えたんです。あの曲で復活して、そのままの流れでアルバムまで行き着こうとするならば、ずっと心の中にあった今回のテーマを、今こそ一気に爆発させるときなんじゃないかなって。
――それがこの驚愕の内容になったわけですね。子供の頃に『不思議の国のアリス』の絵本やアニメーションを観たことのある人は多いと思いますが、あれがどういう話だったのか、きちんと説明できる人は少ないと思うんですよ。何しろ、あの物語自体が、大人の理解を超えたところで展開されていくものですからね。それを元にしながら、『Wonderland Savior』はASAGIくんの独創性によって、新たなストーリーが広がっていく。ただ、別の見方をすると、私たちの知らない本当の『不思議の国のアリス』が、ここにあるのかもしれないなとも思えたりするんですよ。原書にもアニメにも出ていない、裏のストーリーや背景を、物語の事実に基づいてわかりやすく解説してくれているようなイメージはすごくありますね。
ASAGI:それは嬉しいですね。主軸をズラさずに、自分なりの表現で大本にあるテーマを伝えなきゃいけない、そういった使命感は、確かに僕にはありましたね。
――ASAGIくんの考える大本のテーマとは?
ASAGI:やっぱり、ありきたりじゃつまらないというか、夢ってホントに自由なものだと思うんですね。だから、自由に描くことの素晴らしさ、それは個性だったり、アイデンティティだったりもする。復活してから、そういったものを音楽でアートとして表現できたら楽しいなって意識が余計に強くなってきてたんですよ。よりエンターテインメントしたいと言えばいいのかな。自由そのものを求めることも、たとえば、今回の「Underground Revolution ~反逆の旋律(メロディー)~」という曲に表れていますが、夢、自由、愛……そういう根本にあるDのテーマについて、いろんなアプローチをしていければいいなという思いは強かったですね。みんなが知っているテーマだからこそのフックだったりも、散りばめていきたいなと思ってたし、そういった意味ではホントにやり切ったなぁという実感ですね。一応、三部作の完結編ということではあるんですけど、全然、まだまだ書けますね。
――そうでしょうね。今回のテーマは、どの時点で他のメンバーには伝わっていたんですか?
Tsunehito:「HAPPY UNBIRTHDAY」のときには、これが三部作であることと、最後はアルバムで完結させるという考えは聞いてましたね。だから、その時点で、すごく壮大なものになるだろうなと思ってたんですよ。
Ruiza:その話を聞いたときは、ワクワクしましたね。今までの「Alice」「闇の国のアリス」と来て、「HAPPY UNBIRTHDAY」と「MASTER KEY」で、さらに想像できる世界というか景色がグッと広がったんで、どんな不思議な国になっていくんだろうって。
HIROKI:シングルとなった2曲は壮大なイメージを持っていますし、アルバムではまた世界観が広がっていく感覚があったんですよね。特に表題曲の「Wonderland Savior ~太陽と月の歯車~」もそうですけど、各曲のアプローチの仕方についても、自分としてはすごく楽しみではありましたね。
HIDE-ZOU:「HAPPY UNBIRTHDAY」や「MASTER KEY」の頃から、どういうアルバムになるんだろうと想像しつつだったんですけど、アルバムという形になったときに、『アリス』の世界観がどこまで広がるかっていうワクワク感とドキドキ感もあって。実際に1曲1曲の歌詞が届くごとに、すごく物語としての広がりもわかりましたし、感動を覚えながら作れたんですよね。Dが作り上げてきた“ヴァンパイア・ストーリー”でも、様々な曲が増えて、物語も広がってきましたけど、今まで数曲だった『アリス』の世界も、ここでさらに広がった。ホントに楽しめるものになりましたね。
――タイトル曲でもある「Wonderland Savior ~太陽と月の歯車~」は、ミュージック・ビデオも特徴的ですね。
ASAGI:三部作の構想があった時点で、「HAPPY UNBIRTHDAY」で夢の世界を描いて、「MASTER KEY」では現実の世界を描いて、最後には現実から夢の世界に行って、夢の世界を救うという流れが見えてきたんですよね。これはバトル・モードだな、夢の中で戦っているイメージを映像にしたいなと思ったときに浮かんできたのが、スチームパンクだったんですよ。
――実際に映像を公開して、大きな反響もあったのではないですか?
ASAGI:そうですね。ここまでスチームパンクをガッツリとやっているバンドは、中々いないと思いますし。
――この曲は早い段階にできていたんですか?
ASAGI:わりと早かったですね。MVを撮ったのが5.29だから、その前には曲があったから、春……だよね?
Tsunehito:相当早かった気がしますね。4月2日のサンリオ・ピューロランドのライヴのときにはすでにデモはあったから、3月ぐらいだと思いますよ。
ASAGI:タイトル曲として、映像もこれで撮る考えのもとで作ってましたね。
HIDE-ZOU:「MASTER KEY」の頃(リリースは2015年12月)には、すでに戦いのシーンが見えているみたいなことをASAGIさんから聞いていたんです。MVのキャスティングに関しても、あのおばあちゃんが闘うみたいなアイデアが出てましたね。
ASAGI:あぁ、思い出した(笑)。「MASTER KEY」のMVに出ているおばあちゃんが、夢の世界に行ったら、いきなりメガネをバサッと取って、フライパンを持って戦うんだみたいなことは確かに言ってました。夢の世界だと目もよく見えるようになるし、メガネも必要ない、曲がった腰もシャキンと伸びるみたいなことを言ってましたね。
――その発想が凄いですよ。ただ、見逃せないのが、そのまま平穏な世界が訪れるような展開ではなく、なぜそこで戦いの時代に突入したのかということですね。
ASAGI:「MASTER KEY」では、現実世界で夢を見る人たちがいなくなって、悪夢に蝕まれていくというところを裏側では描いていたんですよね。そして、今、夢の世界は悪夢という癌細胞に蝕まれつつあると。そんな中で、夢を持った人たちが、その悪夢と戦わなければいけないというようなイメージがあったんですよ。そういった一連の流れにおいて、「Wonderland Savior」のイメージがあり、悪役の蟹や魔女と戦うというストーリーに辿り着いているんです。そこで出てきたのが、さっきも話したスチームパンクなんですが、これは空想科学という言葉で置き換えることができる。空想とか夢とかっていうのはすごく大事なキーワードだったから、ヴィジュアル面での方向性もだんだん固まっていきましたね。
――言うなれば、アルバムとしては「Wonderland Savior」がオープニングでもいいぐらいの位置づけですよね。ただ、実際にはその前に「Dream in Dream」「月影の自鳴琴(オルゴール)」という2曲が置かれている。
ASAGI:はい。「Wonderland Savior」がまずあって、最初はこの曲をオープニングにしようと思ったんですよ。ところが……ちょっと話が戦いのところに戻っちゃうんですけど、最終的には、攻撃とか武器とかそういったもので倒すのではなく、愛というものでその世界は救われるというところをMVでは描いているんですね。実際に映像では戦いのシーンが大々的にフィーチュアされていますけど、アリスが魔女と抱き合うシーンがある。しかも、その魔女はそもそも自分の母親だったという設定なんですね。母親が現実世界で夢を見れないから、夢の世界で魔女となって現れてしまった。その母親を、アリスが受け入れてあげることで救われる。そういう美しい世界を一番描きたかったんですよ。
 そして、オープニングの話ですけど、「Wonderland Savior」はガシャコンガシャコンって歯車の音から始まるじゃないですか。あそこからインスピレーションが沸いて……大きな時計塔の中の歯車がガシャコンガシャコンと回っているようなイメージが浮かんできたんです。「月影の自鳴琴」はそのガシャコンから生まれた曲なんですね。この時計塔の歯車の音のまま、「Wonderland Savior」に行ったら、場面転換としてもいいかなぁって思って。時計塔のてっぺんに兎が座っていて、星を眺めている、過去を振り返っている。今、夢の世界が壊れそうで、夢が溢れていた過去を回想しているシーンを作りたかったんですね。そう考えたときに、オープニングの「Dream in Dream」は、オーバーチュアとして、夢が溢れていた時代を思い描けるような、きらびやかで夢の溢れる音像がいいなと思って、シンセのアレンジもオーダーしたんです。
――ここでオルゴールが出てくることも大事だと思うんですね。自分でネジを巻かないと、オルゴールは鳴らないわけですから。
ASAGI:そうなんです。しかも、オルゴールにも歯車があるじゃないですか。そこを含めてですね。
――ええ。過去に戻すという意味でもある。実際に歌詞には、<ルイス・キャロル(彼)も今はもういない>と原作者のことも出てきますし、この物語で不可欠でもある、いわゆる「キラキラ星(Twinkle, Twinkle, Little Star)」もフィーチュアされている。こういった細部に渡るイントロダクションとしてのこだわりも、すべて「Wonderland Savior」につながっていくんですよね。
ASAGI:そうですね。だから曲順を決めるときも、頭3曲は動かさずにみんなでアイデアを出し合いましたね。同時に終わりの3曲も決まっていましたね。
Tsunehito:この「Dream in Dream」から「Wonderland Savior」までいく流れは最高だなと思いますし、さっき仰ってたオルゴールについても、夢を動かしていくには自分で動かさないといけないんだなというイメージが、やっぱり自分の中ではあったりして。その意味でも、夢を守ろうとする表題曲にもつながっていく。この最初の流れは、マスタリングの後に聴いたときにも、感慨深いものがありましたね。
Ruiza:この並び順で聴いたときは、僕も感動しましたね。ホントに景色が浮かぶというか、最高の幕開けだなと思ったし、こうあるべきだったんだなって。
HIROKI:これからどんなストーリーが展開するんだろうって、もっと凄い世界を見せてくれるんじゃないかなって、期待させられる流れになったと思うんですよ。
HIDE-ZOU:ちょっとネタばらしになるかもしれないですけど、「Wonderland Savior」のMVにある冒頭の音の部分は、実は「月影の自鳴琴(オルゴール)」とつながっているんですよね。それから、「月影の自鳴琴(オルゴール)」もそうですけど、ギターはRuiちゃんと一緒にプロデューサーの岡野(ハジメ)さんとも話し合いながら進めていったんですね。ただ、僕は録っていく段階でイメージしていた音色とのギャップに悩んで…当初は自分のメイン・ギター、6弦と7弦で弾いてたんですけど、あまりイメージが違うなと感じて、シングル・コイルのギターにしたんですよ。オルゴールのように、ちょっと古い、懐かしいような音を自分の中で表現したかったんですね。そういう取り組み方でも、ギタリストとしての意識は高められたし、魂を込められたなという実感があるんですよ。制作の序盤だったんですけど、そこでとことんまで音にこだわったことも大きかったですね。
HIROKI:自分もプレイヤーとして、「月影の自鳴琴(オルゴール)」は回想部分でもあるので、音数を減らして、壮大なイメージを出したいなという狙いはありましたね。そういったところも、いいアプローチができたなと思います。
――「Dream in Dream」というタイトルも絶妙ですが、様々な広がりを想像させるインストゥルメンタルですよね。とはいえ、全体の曲順は時系列で並んでいるわけではない。時間も空間も、いろんなところに飛んで行く。そこもこの物語の不思議さを体現しているように感じます。続く「Keep a secret ~帽子屋の憂鬱~」には“Mad Hatter”が出てきますが、原作とはまた違ったストーリーになっていますよね。
ASAGI:そう。原作を活かしながらのオリジナルですよね。憂鬱を持っているがゆえに狂ったふりをしている、そういうのが描けたら面白いなと思って。
――曲としても、今までのDにないタイプだなと思うんです。その辺はどんな狙いがあったんですか?
ASAGI:何か気だるい感じというか、正気と狂気の境目の世界が描けないかなと思って考えているときに、ちょっと特殊というか、雰囲気のあるメロディが浮かんできて。そこから組み立てていった感じですね。順番で言うと、サビ、イントロ、Aメロ、Bメロですね。
――あのサビにこのイントロを組み合わせたのも面白いですね。
ASAGI:そうですね。すごくダークに始まりたくて。帽子屋だから、ミシンをイメージできるようなブレイクビーツが欲しいなとか……歌詞の表現もそうなんですよ。たとえば、帽子屋ならではの秘密は何だろうと考えたときに、帽子屋しか知らないのは帽子の中かなと思ったんですよ。そのうちに、兎が実は角が生えているジャッカロープだったというアイデアが出てきたんです。兎の帽子を作っているときに、帽子屋はその事実を知ってしまう。そんな衝撃的な場面を描きたいなと思ったんですよ。そして、秘密を持つゆえに苦しむ。そんなイメージが、僕の中ではこういった音像だったんですよね。
Ruiza:ホントに今までにない感じだなとは僕も思いますし、すごく個性的なものになってますね。ギターも場面に合わせて考えていって。サビの開けていく感じとかもすごくいい感じに表現できたなと。レコーディングはすごく楽しかったですね。シンプルなところは徹底的にシンプルですし、凝っているところは凝ってますし、世界観に合っているものが弾けているからなのか、すごく入り込んで弾けた感覚があるんですよ。
Tsunehito:ベース的には、Aメロの隙間のメロとか、遊びのある部分が多めでしたし、すごく斬新なタイプの曲だったので、自分も楽しみながらフレーズを作れましたし、ちょっとフレーズの音使いでも遊べるようなものが入れられたのでよかったなと。この曲が、この曲順のこのポジションに来ているというのが、このアルバムの幅広さをさらに印象付けてる気がするんですよね。
――そうなんです。そして次の「海王鯨島 亀毛海浜夢珠工場」が続いて、このアルバムは音楽的にもどれだけ広がるんだろうっていう期待感がどんどん膨らんでいくんですよね。
Ruiza:この曲はスチームパンクというところを意識して作りましたね。たとえば、機械的なものということで言えば、やっぱり、ヘヴィな雰囲気も欲しいなと思ったし。でも、まずASAGIくんがつけたタイトルはびっくりしましたね。何と読めばいいんだろうとも思いましたし(笑)。ただ、歌詞の内容にしても、夢のある歌というか、ワンダーランドならではの素敵な世界観が広がっているんですよね。そういえば、クジラの声が入ってるんですよ。これは凄いなと思いましたね。
――Dの楽曲にはいろんな動物が出てきますから、何が出てきても驚かないですけど(笑)。
ASAGI:ははは(笑)。クジラの声を入れたいって岡野さんにお願いしてたんですよ。そしたら、3回ぐらい電話がかかってきましたね。「どんな鳴き声だっけ?」「今、色々調べてるんだけど、どんなのがいい?」って(笑)。まぁ、最終的に曲にあったバッチリの鳴き声になりましたね(笑)。
――「シロナガスクジラとザトウクジラはどっちがいい?」みたいなやり取りをしているスタジオはあまりないと思いますが(笑)、そのクジラは歌詞においても基盤になってくるものですね。
ASAGI:はい。一言で言うならば、巨大なクジラの背中が島になっていて、そこにある工場で、牡蠣だったり、様々な生物たちが、せっせと働いている。これは移動する島なんですよ。
――そんな発想はなかなか浮かばないですよ。
ASAGI:そうですかね?僕はめちゃめちゃ自然に、それしかないなっていう感覚でしたけど(笑)。でも、海と工場はとにかく最初に浮かんだんですよ。デジタルな音の感じだったりとか、リズムの感じだったりとかっていうのは工場だなと。ただ、普通に海の近くの工場じゃつまらないなと思って、視点をどんどん上に持って行くと……それはクジラだったんだと。島自体が移動していったとしたら面白いだろうし。だから、曲のタイトルに結びつくんですけど、海王鯨島だからこそ、特定の場所にはない。自分の力で見つけなければいけないし、偶然見つけることもできるかもしれない。いつもそこに行けばあるものは、それはそれで安心感があっていいのかもしれないですけど、自分で探し求めることを、そこで表現できればいいかなって。結局、その工場で作られている夢珠というものも、自分で海の中に潜って見つけなければいけないんです。つまり、自分の力で自分の夢を掴む、それが描きたかったんですよね。
――ファンタジーではありますが、メッセージがきちんと込められているんですね。
ASAGI:そうですね。“亀毛”という言葉自体に、現実にはあり得ないみたいな意味があるんですね。ワンダーランドのDの世界で兎角國と呼ぶ国がありますけど、ちょっと「Keep a secret」の話に戻ると、兎に角はないとされていながら、“Mad Hatter”、つまり帽子屋は兎に角が生えているのを見てしまう。現実にあり得ないことはあっちゃいけないということで、秘密を抱えてしまう。その流れからも、ここで“亀毛”をタイトルに持ってきているんですが、それを自分自身の力で見つける。その点でもしっくりきたタイトルでしたね。
――牡蠣が出てくるのは、原作を意識していますよね。牡蠣は食べられちゃうんですけど(笑)。
ASAGI:食べられちゃうんですよね(笑)。それがせっせと働いているのがかわいいかなと思って(笑)。
――話を伺っていて、ライヴではどのように見せるのか、妄想が膨らんでしまいましたよ(笑)。
HIDE-ZOU:そのライヴにも最終的に関係してくることですけど、Ruiちゃんの言うように、「Keep a secret」とは対照的に、「海王鯨島 亀毛海浜夢珠工場」では、機械的な音を表現するために、ソリッドに弾いているんですよね。今回のレコーディングで特に思うのは、曲によっての弾き方や音について、作品を重ねるごとにこだわりが強くなってきていることなんですよ。だから、とにかくアレンジや音作りのほうに時間をかけているんですね。
――つまり、録りはスピーディに完了できるスキルが備わっている分、より楽曲ごとの色付けに時間を割くことができるようになっているわけですね。
HIDE-ZOU:もちろん、録りについては、新曲ですから、練習しないと弾けないですよ。でも、そこばかりに気を取られてしまうと、結果として後悔するものになる。限られた時間でいかにベストなものを生み出すか。そのバランスの取り方が大事なんですよね。突き詰めるとキリがないですけどね。
――確かに時間を区切らなければ、永遠に制作が続いてしまうでしょうしね。ここまではシリアスなイメージが強いですが、次の「フューシャピンクとフランボワーズの鍵盤」では、ガラッと雰囲気が変わる。サーフ・ロックを思わせるところも、またDの音楽性の面白さでしょうし、この『アリス』の物語ならではでもありますね。
Tsunehito:ポップでカラフルな曲ですよね。もちろん、コーラスも入ってますし、ホント楽しげな、気分としてハネるような感じの曲なんで、ベースのフレーズも難しいというよりはシンプルに、ピアノを引き立てられるようにというのは意識しましたね。
HIDE-ZOU:そう。だからギターも含めて、ちゃんと音が全部聞こえるような隙間とかを考えましたね。
ASAGI:今回ならではの曲ができてよかったなと思いますね。チェシャ猫をテーマにした曲を書きたいと思ったんですよ。それを一番表現できる楽器はピアノだなと。タタタタタタタタとか、半音で動いていく感じが、猫の自由度というか、気ままな感じ、不思議な感じを表現できるような気がして。だから、ピアノの音色で曲を作り始めたんですね。でも、普通の猫ではなく、チェシャ猫ですから、変じゃなきゃいけない。そこでまずは鍵盤の色からイメージをガラッと変えて、そこから何かヒントを得ようと思ったんですよ。普通のピアノは白鍵盤と黒鍵盤ですけど、チェシャ猫の色、フューシャピンクとフランボワーズにしてみたら、どんな不思議な音が出るんだろうと、頭の中で思い描いて。そしたら、不思議というよりは、だんだんおかしな曲になってきて、これは大丈夫かなと思い始めたんですよ(笑)。ホントに変だったから、たとえば、Aメロのコードをつけなかったんですよ、もうどういう解釈にすればいいか自分でもわからないから(笑)。でも、岡野さんが「大丈夫だ」って言ってくれて。そのときの安心感ったら、なかったですね、よかったぁって。
HIDE-ZOU:岡野さん、「カッコいい!」って言ってくれたんですよね。
ASAGI:うん。今まで自分がやってきた作り方と全然違って……でも、それがよかったんですよね。チェシャ猫を表現するに当って、他の曲ではないような個性的な感じ、変な感じがすごくハマった。そこがこの曲の聴かせどころになったのかなぁと思うんですよ。
――同じ鍵盤なのに、色を変えることで、生まれてくる曲、メロディが変わるのが面白いですよね。まぁ、そこで鍵盤の色を変えてみることに着目したところが、ASAGIくんの特殊な能力なのだとも思いますが。
ASAGI:人間の脳ってホントに不思議だなと思うんですよ。多分、普通に白い鍵盤と黒い鍵盤のイメージで考えてたら、この曲にはならなかったので。ちょっと発想を変えるだけで、世界って広がるんだなって、作詞作曲をしながら思うことは多々あるんですよ。でも、実際、家にピンクと紫の鍵盤のピアノが欲しいなって思いましたね。世界のどこにあるかわからないですけど、見たことがないから。でも、塗っちゃえばいいのか(笑)。
――それが手っ取り早いでしょうね(笑)。
ASAGI:そしたら、もう何曲かチェシャ猫の曲が生まれそうだな(笑)。それと尻尾がピンクと紫になってるから、それを触っても音が出るみたいなイメージもあったんですよ。チェシャ猫の身体がバラバラになって、自分の尻尾を自分で弾いてるみたいなイメージもあって、たとえば、<空に足跡>などは、そういうところからですね。とにかく普通じゃない、摩訶不思議な感じの世界を考えれば、他の曲とは違う普通じゃないものができるんじゃないかなと思ってたんですよ。
――ASAGIくんの頭の中に蓄積されたものが再構築されているのか、思いもよらないところから降ってくるのかはわかりませんが、そこが創作の面白さなんでしょうね。
ASAGI:そうですね。ただ、どの曲も苦しみましたね、今回は。イメージはあるんですけど、それを表現するために構築していくのが……今までで一番大変だったかもしれない。サラッと普通にいかないというか。でも、苦しんだ分、ちゃんと手応えはあって、これでよかったんだっていうところには辿り着きましたね。できちゃえば、いつもそう思うんですけど、とにかくできるまでが……あまり正気じゃないというか。できなかったら気が狂っちゃうんじゃないのかなみたいな。
――それだけ集中して、気が触れるぐらいの感覚になっていないと、何か新しいものは出てこないのかもしれないですね。
ASAGI:確かにそう思いますね。特に今回は、摩訶不思議な世界を描きたかったから、ハードルが高いんですよ。でも、飛び越えたなって感覚はありますね。
――その次の「Egg Supremacism」は、EDM要素の強い始まり方も印象的ですね。
Tsunehito:この曲はアルバムに向けた曲作りの中で、最初のほうにできたものですね。実は夏のツアーでは、この曲の素材を使ったSEを流してたんですけど、近未来のテイストとレトロっぽい音の重なりなどを意識しながら作ってたんですよ。いわゆるシンセサイザーの音と歪ませたアコーディオンの音とかの組み合わせもそうですし、たとえばサビとかもオクターブ・フレーズでベースを考えてダンサブルなものにしてみたり、そういう面白い曲調にできたのはよかったなと思いますね。
――歌詞は曲からアイデアを膨らませていったんですか?
ASAGI:はい。この曲を聴いてたら、『アリス』のキャラターがスチームパンク化しているようなイメージが思い浮かんだんですね。ちょうど自分たちの新しい(スチームパンクの)ヴィジュアルと音がすごくリンクしてたから、これはいいなと思って、この曲の素材を使ってSEを作ってくれないかなってTsuneに相談して、先行してツアーで使ってみたんですよ。そこから具体的にどんなテーマにしていこうかなと思ったときに、研究室のような密室で、身体に歯車がついたり、スチームパンクの格好をしたハンプティ・ダンプティが何か様々な不思議な奇行みたいなものも広げながら考えてるみたいなイメージが浮かんで、そこから広げていった感じですね。とにかく「絶対に卵は素晴らしい!」ってことを歌おうと。調べれば調べるほど、卵って素晴らしいなと思うんですよ。
――卵が素晴らしい……ですか?
ASAGI:そう。卵黄がそもそも一つの細胞であり、ダチョウの卵は世界最大の細胞じゃないですか。その時点で素晴らしいじゃないかと思って。でも、普段食べていたとしても、あまりそんなことは考えないですよね。とはいえ、身近にそんな素晴らしいものがあるってこと自体が、大発見だと思うし、みんな知るべきだと思うんですよ。どんなに素晴らしいものに囲まれて、幸せな生活をしているのかってことを。ここに登場する主人公はハンプティ・ダンプティで、『アリス』に登場する卵のキャラクターで、ストーリーの中では落ちて割れたりもするんですけど、何というのかなぁ……原作でも、すごく知的で、名誉を重んじるようなハンプティ・ダンプティ像がありますよね。だから、その「落ちる」ということについても、意味を与えたかったんですね。たとえば、ニュートンはリンゴが落ちるのを見て、万有引力を発見しましたけど、その卵には「リンゴじゃなくて自分だったらよかったのに」っていうようなことを思わせたいなと思って。それは自分の身を犠牲にしても名誉を重んじるという意味合いなんですね。
――なるほど、最後の一節はそういう姿を描いているんですね。
ASAGI:そう。喜んで我が身を差し出す。各曲を際立たせるうえでも、一つ一つのキャラクターに個性だったりとか、考えだったりとかをしっかり持たせたかったんですよ。
――なりたい自分になるのではなく、ある種、自己犠牲の精神ですね。「シュレディンガーの夢遊猫(むゆうびょう)とジャッカロープの杖」も、タイトルから謎めいていますが、Bメロに当たるところには、<箱のなかの生と死は併存する表と裏>と“シュレディンガーの猫”と呼ばれる量子力学の考え方も綴られていますね。
ASAGI:仮タイトルは“シュレディンガー”だったんですよ。チェシャ猫自体が現れては消える、神出鬼没の不思議な存在ですけど、巨大化したチェシャ猫に時計ウサギがまたがって戦っているようなイメージが最初にあったんですよ。それからリフが思いついて……チェシャ猫も凶暴化していますし、ジャッカロープも薔薇の杖を使って浄化していく。夢遊猫という(夢遊病とかけた)表記は、夢で遊ぶ猫というのが、いかにもチェシャ猫を表現しているなと思ったのと、もともとの“シュレディンガーの猫”の考え方ですね。開けてみなければ結果はわからないわけだから、箱の中には死んでいる猫と生きている猫が同時に存在しているという説ですけど、そもそもチェシャ猫も存在しているかどうかわからない、でも、そこにいる。そんな意味合いで、こういうタイトルにしたんですね。だから戦い方も、やっぱり神出鬼没なものにしたんですよ。時計ウサギが持っている杖にも意味を持たせたし、ウサギに角が生えているジャッカロープというところで、完全に威嚇している、戦闘態勢に入っている。タイトルにもある杖は実は時計塔の秒針で、時間を操る力を持っているという設定にしたんですね。だから、4年に一度のうるう年のズレも担っている。計算上は1日1分ずつズレていくことになるんですけど、それをその杖で操ることができる。そんな不思議な力を持った杖なんです。MVにしたときの画もそうなんですけど、杖の大きさとしても、秒針のサイズ感がちょうどバランスがよかったんですよね。
――しかし、秒針を杖に見立てた視点に驚かされますよ。
ASAGI:その噛み合ったときの、「これだ!」って感覚がすごく好きで。それを常に求めてるんですよ、多分。この曲の場合も、時計の針だから時間が操れるという設定であれば、納得できるし、いろんなことの意味が深まってくる。単に「時間を操れるウサギです」と言っても、裏付けがないものには、説得力がないと思うんですよ。”ヴァンパイア・ストーリー”でもそうですけど、全部のストーリーが複雑な絡み合いの中で動いている。そういうものでなければ、自信を持って打ち出せないですからね。
――中盤のラップ的な展開部分も、この曲を風変わりにしている重要な箇所ですが、ナレーションのような役割も果たしていると思うんです。
ASAGI:そうですね。戦いのスピード感とかスタイリッシュな感じを表現するために、あの歌い方と情景は必要だったんですよね。疾走感ということで言えば、ただ走るにしても、いろんなニュアンスの違いがある。ここではずっと走っているのではなく、浮かんだり消えたり、瞬発力があったり、そういったものを考えたんですね。その点ではシンコペーションのぴょんと跳ねる感じなどを考えながら、メロディも詰めていって。そういうリズム、メロディと言葉の緻密な組み合わせが、人間の脳を刺激して映像も浮かぶのかなぁと思いながら作ってましたね。
――ライヴではすごく攻撃的な演奏、パフォーマンスになるんでしょうね。ドラムを筆頭に激しいアンサンブルが繰り出される。
HIROKI:そうですね、もうスタートダッシュ感が満載なんで(笑)、そこからツーバスのゴリ押し感というのを体感して欲しいですね。テンポ的にも、すごく踏みやすいビート感ですし、観ている側ものりやすいと思うんですよ。そういったところでも、期待してて欲しいですね。
Ruiza:ギターに関しては、一番難しい曲なんですよねぇ。すごく攻撃的な面もあるんですけど、リフがまず難しくて。だからこそ、勢いだとか、激しい感じとかを損なわずに、音はどうすればいいんだろうと考えて、7弦で弾くのか6弦で弾くのか、どんなテンションが良いのか、そこは特に大事に弾きましたね。
Tsunehito:曲調的には激しいんですけど、レコーディングのときに気をつけたのが……岡野さんのアドバイスもあったんですけど、キックを踏んでいる上にベースを載せていくというより、イントロからAメロまでのフレーズで言えば、グルーヴの真ん中にベースがいるようにしてるんですね。それによって、リズミックに曲に躍動感が生まれるように意識して。激しい曲だからこそ、ノリのよい感じにできたらなぁと。
――「Psychedelic Horror Show」にもまた猫が出てきますね。ここでは最初から鳴いているのでわかりやすいですが(笑)。
ASAGI:そうですね、「美味い!」って言ってますからね(笑)。
――捉え方が難しい曲でもありますよね。楽しいようで楽しくないと言いますか。
ASAGI:「フューシャピンクとフランボワーズの鍵盤」と「Psychedelic Horror Show」はほぼ同時期ぐらいに作ったんですよね。同じチェシャ猫の曲でも、何か違った表情を見せたいなと思って。ここでは悪役の蟹を食べちゃうという設定がありますけど、ただ単にバリバリ食べるだけじゃなくて、食べたことによって、チェシャ猫のお腹の中が現実とつながっていって、悪夢から解放されるみたいな感じの大きなテーマがいいなと。食べられることによって浄化される。食べられるってこと自体、わりとホラーじゃないですか。そういった要素も入れたいし、怪しい館的なところに巨大な化け猫がいたら怖いよなとか……しかも、紫とピンクってサイケデリックで何か不思議な感じなんで、そこに関わってくる要素を全部ミックスさせたいなと思って作ったんですよ。屋敷の中にはシャンデリアはあるんですけど、すごく暗い。そして、馬鹿でかいチェシャ猫が屋敷の一部として存在している。だから、たとえば、絨毯や階段に見えるものは尻尾だし、月だと思ったものは口だったみたいな、不思議な館のイメージなんですね。ド頭のイントロのダッダッダっていうのは、巨大化していく感じのイメージから始まっていって、屋敷の中で巨大化したチェシャ猫が、悪役が迷い込んでくるのを待っている。そんなイメージでイントロやリフから考えて行きましたね。
――そこにASAGIくんなりの普遍的なメッセージがあるとしたら、どういうものになるんでしょう?
ASAGI:うーん……やっぱり、「Psychedelic Horror Show」って言いながらも、一番は悪夢からの解放でしょうね。そこにちゃんと救いがある。ただ敵役が食べられて死んでしまうだけで終わるのではなく、現実の世界で悪夢から目覚める。それがサビに書かれている場面ですね。
――<人生の~>と始まる歌の最後のセクションなどは、ホントに人生訓のようなものですよね。経験則でわかっていることでも、現実に直面すると、上手く立ち回れないことも多いじゃないですか。だからこそ、格言的なことをASAGIくんが発することで、ポジティヴな影響が出ることを意識しているところもあるのかなと。
ASAGI:Dの楽曲を聴いて、少しでもやる気が出るとか、そういう気持ちになってくれることは、自分が一番やり甲斐を感じるところですよね。この歌詞にもあるように、“辛い”と“幸せ”は、ほとんど字が一緒なわけじゃないですか。髭を一本(一画)足したら、幸せに変えることができる。そんなポジティヴなメッセージみたいなものは入れたかったし……すごく辛い状況に置かれていたとしても、最終的にはそこから這い上がっていくしかないわけですから、プラスに作用する発想みたいなものは、様々な表現方法や言葉を使って作り上げてはいますね。生きる力というか、そういうものが内面から湧き上がってくるようなメッセージを込められたらいいなというのは、最初からありましたね。
――
演奏陣のレコーディングで何か特筆すべきこともありました?
HIDE-ZOU:歌えるギター・ソロを弾きたいなと思ってたんですよ。そしたら、岡野さんに「すごく歌えてるなぁ」って言ってもらえて(笑)。数年前の自分と比べて、そこに夢と希望が詰まってるなって(笑)。もちろん、ただ歌えるフレーズというだけではなくて、ギターで歌っているというような表現方法ですよね。それから、アレンジを岡野さんを交えてみんなで考えている中で、スカのリズムを採り入れることで、ひと盛り上がりありましたね。「HIDE-ZOUと言えばスカでいいじゃん」みたいな。まぁ、それは冗談ですけど(笑)、あるひとつの要素を組み入れる中で、自分ならではのギターを弾くことができた。そういえば、「シュレディンガーの夢遊猫とジャッカロープの杖」で、bpm=240のテンポを、全部ダウン・ピッキングでいけるかみたいなのがありましたね。日本人でこんなに弾けるヤツがいるのかなぐらいの。
ASAGI:おぉ、言うねぇ(笑)。
Ruiza:いるだろ、きっと(笑)。
HIDE-ZOU:いや、でも、この界隈ではないないだろうと(笑)。
――この界隈ってどこですか(笑)。
Ruiza:まぁ、Dの中では一人だけど(笑)。
HIDE-ZOU:やれるもんならやってみろって(笑)。僕は絶対にやってやれないことはないと思って弾いてみたら、いけたんですよ。昔、200がギリギリだったのに、220でもいけたことがあったんですよ。今回はそこから20ですからね。やっぱり人って変われるもんだなって。多分、数年後には240なんて楽勝じゃんってなってるんじゃないかなって。数年前なんて、240なんて人間じゃ無理ぐらいに思ってましたから。
――それはスチームパンクだから可能だというオチですか?(笑)。
HIDE-ZOU:歯車のギア比を変えていけばいけるかもしれない(笑)。いや、それはほんの一例ですけど、このアルバムを通して、メンバー個々にいろんな部分で限界を超えたところがあるんですよ。それはライヴを観て体感して欲しいですね。
――先ほど“自由”についての話がありましたが、「Underground Revolution~反逆の旋律(メロディー)~」も、その意味でもわかりやすい攻撃的な楽曲ですね。
ASAGI:そうですね。絶対にやりたいなと思ってたんですよ。ヘヴィなアプローチもすごくリンクしてて。思いとしてはずっとあったんですけど、それがなかなか形にならなくて、多分、出来上がったのも一番最後だったのかな。ツアーを廻りながらの制作でしたけど、その置かれている状況の中でベストを尽くしたいし、絶対にプラスに作用させたいと思うんですね。その意味ではライヴ感は絶対に入れたいものでしたし。ハートの女王の卑劣な独裁からみんなで立ち上がって自由を得るんだというようなテーマを、ずっとやりたいなと思ってたんですね。その時点で、それが形になったときの手応えや、自分の血が熱くなる感じがすごくあって。原作にはないところを描いているから、余計に自分らしさ、本能的なロック・スピリッツが出たかなって思いますね。
――仰ったように、『不思議の国のアリス』の世界は、言わば一定のヒエラルキーの元に成り立っていますよね。それを崩さない、むしろ触れないことで、ファンタジーとして完結している。ところが、あえてそこに自由への希求のような理念を、ASAGIくんは採り入れた。ここまでの自分自身の経験、知識など、そこに向かわせたものが何かあったのかなと思うんですよ。
ASAGI:絶対にありますね。様々な活動をしていく中では、弊害もありますし、予想だにしていないことも起こる。物語に触れたときって、その中に自分を投影するじゃないですか。たとえば、ハートの女王がいて、卑劣な独裁国家を作り上げていたとしたら、自分だったらどうするかを考えたときに、絶対にこういう行動を起こすと思うんですよ。自由を手に入れるために、仲間とともに立ち上がる。さっき言った手応えは、そういう意味もありますね。何事にも屈しない、どんな状況でも絶対に這い上がってやるという気持ち。いつもそういう部分はオブラートに包んでいるんですけど、ここではストレートに出たかなって。でも、実際そうじゃないと、自分自身がここまで生き残ってこれなかったと思うんですよ。
――<瓦礫の中から神を求めながら>と出てきますが、瓦礫の中にいれば、何をするにもまず気力がなくなると思うんです。そこから這い上がろうと思えた人だけが、新たな世界を生み出せるのかもしれませんね。
Tsunehito:ASAGIさんが書いた歌詞のストーリーも読みましたけど、不屈の精神というか、何というんでしょうね……負けない気持ち、そういう勇気みたいなものをすごくもらえる曲だなと感じましたし、アルバムのこのポジションに置かれているのも、すごくピッタリなんですよね。バンドとして活動していくうえでも、もっともっと何があっても負けずに突き進んでいこうという気持ちにさせてくれる。だから、レコーディングでもより気持ちが入りましたね。
Ruiza:グッとくる曲ですね。すごく映像も浮かびますし、やる気をもらえるというか……ここにあるべき曲なんだなって。何かこの曲を聴くたびにそう思うんですよ。
――物語の形をとったアルバムの中の一つの要素ではありますが、密かにDの意思を形にした曲と言っても言い過ぎではないでしょうね。
ASAGI:まさにそうですね。だから、「MASTER KEY」では、自分はジョーカーだったんですけど、メンバーそれぞれがトランプのスートの役割を果たしているといった意味合いもあるからこそ、ここにもトランプが出てきたり。そういった要素も全部入れたいなと思ったんですね。たとえば、スペードは剣だったりとか、杯はハートだったりとか、硬貨はダイヤだったりとか、棍棒はクラブだったりとか、そういう部分も散りばめて、まさに今、Dが表現していることを、強い志というところでの集大成的なものを詰め込められた曲になればいいなという思いがあって。だから、曲順も「MASTER KEY」の後に来るようにしているんですね。必ずそれぞれに役割があって、それをきちんと果たすからこそ、みんなで掴み取れるものがある。そんなメッセージが込められたらいいなというのがあって。
――ええ。その意味では、クライマックスという言い方はおかしいかもしれませんが、アルバムはここで一旦締まるんですよね。だからこそ次の「水たまりの空」が意味深く聞こえてくる。ピアノをメインに聴かせているところもポイントだと思いますし、“水たまり”というワードも重要ですよね。つまり、『アリス』の最初の場面につながってくる。現実と夢のちょうど境目にあるようなニュアンスもすごく感じるんです。
ASAGI:まさに仰る通りで、実際、ドードーの絶滅といった、現実にあった話をモチーフにしていて、それに対する悲しみなどを歌いたいなと思っていて。さっきのHIDE-ZOUくんじゃないですけど(笑)、ドードーでここまで泣かせる曲を作るのは世界中で自分しかいないかなという自負もあり。まぁ、全曲そういう勢いでやってるんですけど、全体的なテーマであるスチームパンクも、まさに大航海時代から生まれてきているものですし、それとドードーの絶滅と、水たまりを見て空を飛ぶ夢を見るといったイメージがすごく浮かんだんですよね。アルバムの制作に入った中では、ドードーのテーマは最初の段階からあったんですけど、ホントに思い浮かぶまま、歌いたいままに作った感じですかね。その景色がずっと頭の中にあったので……最後の転調して、ちょっとフワッとした感じに音階が上がるのも、夢の世界で飛んでいるイメージを表現するためのものなんですよ。夢ならば飛べる。そこは上手く表現できたなと思いますね。
――希望も絶望もある。いろんなことを考えさせられる曲ですね。
ASAGI:そうですね。今までも動物をテーマにした曲はたくさんありますし、言い続けてきたことでもありますけど、人間は何かを犠牲にしながら生きていることに対して、日々、感謝しなければいけないと思うんですね。その大きなテーマが、こうやって別の形で表れたのかなと思うんです。人間がその島に侵略してくるまでは、その鳥たちにとっては楽園だった。それを自分に置き換えてみればわかりますよね。誰かが侵略してきて、仲間を殺されたりすれば、とんでもなく悲しいだろうと。そんな思いをここに反映させているんですけど、逆の立場になってみると、いい世界が広がるんですよね。
――そうですね。何かに対して非難することは簡単ですが、その事象がなぜ起こったのか、根源まで踏まえると、簡単には意見できないんですよね。
ASAGI:そうなんですよね。それはホントに、人生、経験しながら勉強していかなければならないなという思いは常にありますね。
HIROKI:すごく悲しい曲だからこそ、そういった感情などがより伝わるように、音の運びなども色々と考えました。1音1音、強く叩かずに、世界観に見合った音作りもしながらのプレイでしたし、そこはかなり実現できたんじゃないかなと思います。
Tsunehito:楽器隊の録りとしては、この曲が最後だったんですよ。その意味でも、アルバムに対しての思いなどを全部込めて、悔いの残らないようにと思いながらレコーディングもしたし、曲の歌詞、ストーリーからも、自分なりにいろんなことを考えたんですよね。こうして自分が生きて、Dとして曲を作って活動することも、自分が死んだ後も残っていくことなんだなとも思いましたし、様々な気持ちでレコーディングに臨んでいたので、録り終えたときは、達成感もあり、感慨深いものがありましたね。
――そして最後は「七色革命」。同じく革命を扱っているとはいえ、「Underground Revolution~反逆の旋律(メロディー)~」とは、明らかに見え方は違いますね。
ASAGI:あえてそうしたところはありますね。同じことを真逆のアプローチで発するのもいいかなと。Tsuneから曲が来たときに、空に飛び立っていく飛行艇のイメージがあったので、まさにDと通じる部分があるなと思ったし、「Night-ship “D”」と置き換えることもできるなと思ったし、これはまだまだ旅は続くという意味でも、アルバムの最後にしたいなというのは最初からありましたね。最後の3曲も当初から決まっていたというのは、こういうことなんです。「七色革命」という希望のある感じで終えたいなって。
――懐かしく、心温まる、郷愁感のある、そんな印象を受ける曲でもありました。
Tsunehito:そうですね。傷つきながら切り開いていくイメージを考えながら作ってて。最後のメロディの1音の部分は、一番光が射して輝く感じを最初から意識してたんですけど、そこは岡野さんからいいアドバイスをもらって、この形になりましたね。曲の構成もいろいろ試して、デモの段階とは入れ替わったりしてるんですけど、それによって、曲もよりストレートな感じにはなりましたね。そこから歌詞とストーリー、そして“七色革命”というタイトルを見たときに、やっぱり虹や空が見える感じもあったり、いろんな景色を思い浮かべながらレコーディングできたのもよかったですね。こうやってアルバムの最後を飾る曲になれたのも、自分の中ですごく嬉しかったです。
HIDE-ZOU:『Wonderland Savior』の最後を飾る曲として、すごくマッチしたなという印象ですね。アルバムを通して聴いてみると、改めてDっていいなと感じてもらえるんじゃないかなと強く思えるんですね。「Night-ship “D”」もそうですけど、大きな舟にみんなで乗って、航海していくイメージを持ってくれるんじゃないかなって。
――<太陽型のエンジンをかけて>という一節がありますが、この“太陽型”とは、どのようなイメージなんでしょう? 常に光り輝いていることの比喩でもあると思いますが。
ASAGI:もちろん、それもあるし、世界中を照らす思いみたいな意味合いですね。もう一つ、空に向かって飛んで行くイメージで、その航路の景色の中で、巨大な太陽型エンジンで世界中のプロペラを回すぞという気持ちを歌詞にしたかったという思いもあります。実際、星形エンジンというのがあるんですね。でも、太陽型のエンジンというのはないんですよ。だとしたら、太陽型のエンジンにしたほうがオリジナリティがありますし、希望だったり、光だったり、そういうものを表現するには最適だなと思ったんですよ。
 それから、歌詞の中で<悔しさに濡れた>手でエンジンをかけるという表現をしているんですけど、太陽だったら、その悔し涙も乾かしてくれるんじゃないかなという意味合いも込めて。それで世界中を旅して、メッセージを発信して……まぁ、プロペラというのは、要は心のプロペラなんですよね。自分たちが発信する音楽というもので、世界中の人たちの心のプロペラを回したいなっていう思いが集約されてる。自分でも、すごく納得のできる歌詞ができたなと思いますね。
――ただ、あえて言いますが、昨今は「頑張ろう」とか「大丈夫だ」とか、わかりやすいメッセージだけを並べた歌も多いですよね。
ASAGI:それが受け入れられる意味もわかるんですけど、それって中身がないと、その瞬間の気休めでしかないなって思っちゃうんですよね。根本的なところをちゃんと伝えているのかなって考えると、何か違うんじゃないかなって思うことは多々あって。ただ聞こえのいい言葉ばかりじゃなくて、ちゃんと現実の厳しさも伝えたうえで、希望のあることを歌いたい。それが自分のスタンスなんですよね。このアルバムの最後に「七色革命」がきたのも、意味があってのことですし。
――雨が降った後、太陽光線がなければ、虹も現れない。この曲では具体的に虹が出るという記述はありませんが、それは聴き手を信頼したい思いがあるゆえでもあるんでしょうね。
ASAGI:そこをそう言っていただけると、すごくやり甲斐もありますね。「七色革命」なんてタイトルがくれば、すぐに虹がどうこうって歌いそうじゃないですか。そこはあえて書きたくなくて、リスナー自身の心に虹を描いて欲しいんですよね。
――だから、これで最後の曲ではありますが、物語が終わらないんですよ。
ASAGI:終わらないですね(笑)。まだまだ広がっていくんだな、続きが聴きたいなって思ってもらえたら、嬉しいですね。
――そこは間もなく始まるツアーでも、新たな表現はあるのかもしれませんね。既存の曲から何が選ばれるのかも含めて、『Wonderland Savior』に伴うライヴが楽しみですよ。
Ruiza:しっかり表現したいなと思いますね。素晴らしいアルバムになったので、楽しみにしていて欲しいですし、一緒にその日のライヴを作っていけたら嬉しいなと思いますね。
Tsunehito:やっぱり、全力を込めて作り上げたアルバムなので、それをしっかりライヴとして表現するのはもちろんのこと、自分が聴いても、勇気だったり、いろんなものをもらえるアルバムになっているので、みんなにもそう感じてもらいたいなと思いますし。ライヴでもそんなことを感じ取ってもらったら、ホントに嬉しいですよね。
HIROKI:みんなアルバムをすごく聴き込んでから来てくれると思うんですけど、ヴァリエーション豊かな曲が詰まっているからこその世界観を最大限見せつつ、Dの素晴らしさを感じてもらいたいですね。もちろん、プレイヤーとしても、しっかり魅せたいなと思いますし、少しでもみんなに力を与えられるプレイを届けたいと思っています。ぜひライヴ会場で素敵な時間を共に過ごしたいですね。
HIDE-ZOU:自分自身のことで言えば、ツアーごとにいつも何か目標が見つけられるんですね。参加してくれる人たちも、毎回、何かを得て帰ってもらいたいし、また来たいなと思ってもらいたいですし。それが大きければ大きいほどいいなと思うんですよね。
ASAGI:夢の世界を描いているわけですけど、ライヴは、それを現実に感じてもらえるようなエンターテインメントですよね。まさに「七色革命」のように、一緒に旅をしている感じだったり、「Underground Revolution~反逆の旋律(メロディー)~」のように自由を求めて共に立ち上がったり、「Wonderland Savior ~太陽と月の歯車~」では心を一つにして、僕らと皆の歌声でこの夢の世界を守ったり。他の曲でもそうですけど、バンドとファンが共鳴しながら、Dの世界観を表現していけたら最高ですね。

取材・文/土屋京輔


2016.10.26 Release
Wonderland Savior 限定盤A-TYPE(CD+DVD)
CJ Victor Entertainment/VBZJ-28/¥3,900(税別)/CD+DVD
[CD]
1.Dream in Dream (Instrumental)/2.月影の自鳴琴(オルゴール)/3.Wonderland Savior ~太陽と月の歯車~/4.Keep a secret ~帽子屋の憂鬱~/5.海王鯨島 亀毛海浜夢珠工場(かいおうくじらとう きもうかいひんゆめたまこうじょう)/6.フューシャピンクとフランボワーズの鍵盤/7.Egg Supremacism/8.HAPPY UNBIRTHDAY/9.シュレディンガーの夢遊猫(むゆうびょう)とジャッカロープの杖/10.Psychedelic Horror Show/11.MASTER KEY/12.Underground Revolution ~反逆の旋律(メロディー)~/13.水たまりの空 ~ドードー飛行記~/14.七色革命
[DVD]
1. 「Wonderland Savior~太陽と月の歯車~」 Music Video/2. 「Wonderland Savior~太陽と月の歯車~」 Music Video Making
Wonderland Savior 限定盤B-TYPE (CD+DVD)
CJ Victor Entertainment/VBZJ-29/¥3,900(税別)/CD+DVD 
[CD]
1.Dream in Dream (Instrumental)/2.月影の自鳴琴(オルゴール)/3.Wonderland Savior ~太陽と月の歯車~/4.Keep a secret ~帽子屋の憂鬱~/5.海王鯨島 亀毛海浜夢珠工場(かいおうくじらとう きもうかいひんゆめたまこうじょう)/6.フューシャピンクとフランボワーズの鍵盤/7.Egg Supremacism/8.HAPPY UNBIRTHDAY/9.シュレディンガーの夢遊猫(むゆうびょう)とジャッカロープの杖/10.Psychedelic Horror Show/11.MASTER KEY/12.Underground Revolution ~反逆の旋律(メロディー)~/13.水たまりの空 ~ドードー飛行記~/14.七色革命
[DVD]
13th Anniversary 「Mad Tea Party Vol.34」 2016.4.15 EX THEATER ROPPONGIよりDのLIVE部分を収録
Wonderland Savior 通常盤(CD)
CJ Victor Entertainment/VBCJ-60004/¥3.000(税別)/CD
[CD]
1.Dream in Dream (Instrumental)/2.月影の自鳴琴(オルゴール)/3.Wonderland Savior ~太陽と月の歯車~/4.Keep a secret ~帽子屋の憂鬱~/5.海王鯨島 亀毛海浜夢珠工場(かいおうくじらとう きもうかいひんゆめたまこうじょう)/6.フューシャピンクとフランボワーズの鍵盤/7.Egg Supremacism/8.HAPPY UNBIRTHDAY/9.シュレディンガーの夢遊猫(むゆうびょう)とジャッカロープの杖/10.Psychedelic Horror Show/11.MASTER KEY/12.Underground Revolution ~反逆の旋律(メロディー)~/13.水たまりの空 ~ドードー飛行記~/14.七色革命
<Bonus track>
15.HAPPY UNBIRTHDAY (LIVE / WS TOUR "your voice" EDIT MIX)/16.MASTER KEY (LIVE / WS TOUR "your voice" EDIT MIX)/17.Wonderland Savior ~太陽と月の歯車~ (LIVE / WS TOUR "your voice" EDIT MIX)

D TOUR 2016 冬ツアー
「Wonderland Savior ~月の歯車~」


11.3(木・祝) 名古屋Electric Lady Land
11.6(日) OSAKA MUSE
11.11(金) 新横浜NEW SIDE BEACH!!
11.13(日) HEAVEN'S ROCK さいたま新都心VJ-3
11.19(土) 仙台CLUB JUNK BOX
11.23(水・祝) 新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
11.26(土) 札幌cube garden
12.2(金) 福岡DRUM Be-1
12.4(日) 広島SECOND CRUTCH

★Grand Final
2017.1.27(金) 新宿ReNY

>>最新情報はこちら
D OFFICIAL WEB SITE


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